韓国はいま、自分の爪を自分で塗っている
ダイソーの棚で、この夏はじめてネイルがコスメを追い抜いた。2,000ウォンのジェルと、5,000ウォンという上限が組み合わさったとき、サロンで買っていた時間が家に移った。不況の消費に見えて、実際はそれだけではない。
ダイソーの中で何が探されているかを毎日取っている。コスメ、新商品、おすすめ、ネイル、香水の5つ。この2年、一番はずっとコスメだった。ところが今年の7月と8月、ネイルがそれを追い抜いた。
去年の同じ月は、コスメ29.2に対してネイル26.7で、コスメが上だった。今年の7月はコスメ20.3、ネイル25.3。順位が入れ替わっている。
「セルフネイル」とは何をすることか
韓国で「셀프네일(セルフネイル)」と呼ばれているのは、サロンに行かずに自宅でジェルネイルをすることを指す。ベースを塗り、色を重ね、小さなUVランプで固める。乾かすのではなく光で固めるので、家でも数週間もつ仕上がりになる。
従来これは、道具をそろえる段階で止まる趣味だった。ランプ、ベース、トップ、カラー、リムーバー、ファイル。ひととおり買うと、サロン数回分の値段になる。だから「一度サロンに行ったほうが早い」で終わっていた。
5,000ウォンの上限が、道具をばら売りに変えた
ここにダイソーの価格の仕組みが効いてくる。ダイソーの商品はすべて500・1,000・1,500・2,000・3,000・5,000ウォンの6段階のどれかで、上限の5,000ウォン(およそ550円)は2006年から変わっていない。
この上限があるかぎり、ネイル用品を「セット」で売ることはできない。必然的に、ジェル1本、ベース1本、ファイル1枚と、ばらして並べることになる。ジェルネイルポリッシュは9mlで2,000ウォン。
結果として起きたのは、入り口の値段が崩れたことだ。以前は「一式そろえる」判断が要ったものが、「2,000ウォンの1本を試す」判断に変わった。韓国のメディアは、1〜2万ウォン台で始められると書いている。サロン1回分より安い。
つまり制約が売り方を決め、売り方が入り口の高さを決めた。5,000ウォンの上限は、安さの話であると同時に、単位の話でもある。
数字で見ると、入れ替わりははっきりしている
コスメが半分以下に落ち、ネイルが倍になった。片方が落ちただけでも、片方が伸びただけでもない。両方が同時に起きて、順位が入れ替わった。
ネイルには夏に伸びる季節性がある。素足になる時期だからで、9月に入ると落ちる。実際、今年9月はコスメ25.1に対してネイル15.3で、順位は戻っている。ただし去年の夏はこの逆転が起きなかった。季節が同じで結果が違うなら、変わったのは季節ではない。
なぜサロンから家へ移ったのか
押し出した側の理由は、値段である。韓国でもサロンの施術料は上がり続けていて、韓国のメディアは物価の上昇で施術の価格が負担になり、より安く爪を飾れるセルフネイル製品へ関心が移った、と書いている。同じことは米国でも起きていて、インフレがネイル市場をサロンからセルフへ動かしたと報じられている。
ここまでなら、不況期に何度も見た形だ。外で買っていたサービスを、道具を買って自分でやるようになる。外食が減って自炊が増えるのと同じ動きである。
ただし、それだけではなかった
取材記事に出てくる言葉が、この見立てを少しずらす。「ネイルサロンより、自分がやったアートのほうが気に入っている」。節約としてではなく、選んだ結果としてそう言っている。
韓国の報道は、セルフネイルが費用の節約にとどまらず、ひとつの趣味の文化として定着しつつある、とも書いている。机の上にUVランプを置いたままにしている人がいる、という描写が出てくる。道具が片づけられずに出しっぱなしになっているのは、それが日用品ではなく、続けている行為の設備だからだ。
節約だけが理由なら、安く済ませて終わる。終わらずに道具が増えていくなら、置き換わったのは値段ではなく、時間の使い方のほうである。
爪は、自分がいちばん見る場所にある
なぜコスメではなくネイルだったのか。ここからは数字の外側の話になるが、身体のどこを飾っているかを考えると筋が通る。
化粧は、鏡の前に立ったときにだけ自分に見える。顔は自分からは見えない場所にあって、基本的に他人のためのものだ。爪は違う。手はずっと視界の中にあって、文字を打つあいだも、箸を持つあいだも、自分の目に入り続ける。他人に見せる前に、まず自分が一日中見ている。
外に出る回数が減り、人に会う機会が減ったとき、他人に向けた飾りから先に削られる。残るのは自分が見る場所のほうだ。ダイソーの棚で、コスメが落ちてネイルが伸びたことの中身は、おそらくその順番である。
実際、この2年で落ち幅が大きかったのは「모공(毛穴)」41%減、「톤업(トーンアップ)」38%減——どちらも人に見られる前提の言葉だった。
日本から見ると、どこが違うか
100円ショップにもネイル用品はある。違うのは価格帯の設計で、5,000ウォン(550円ほど)まで使えると、ジェルやランプのように「100円では作れないが、サロンに行くほどでもない」帯の商品が棚に載る。この帯があるかどうかで、家でできる範囲が変わる。
そして順序として、韓国のこの動きは、日本のコンビニや量販店にK-ビューティとして並ぶより前の段階にある。棚に並ぶころには、現地では別のものが始まっている——ドバイチョコの系統で確かめたとおりだ。
ソウルで棚を見るなら
ここまでの話は、旅行の買い物としてはかなり具体的な意味を持つ。ダイソーのネイルは、コスメの一角ではなく独立した売り場になっている。見るべきものを挙げておく。
- ジェルは1本2,000ウォン(9ml)。色を何本か選んでも、日本でジェル1本を買う値段に届かない
- セットが存在せず、必ずばら売り。すでに道具を持っている人は、足りない色だけを足せる
- 上限が5,000ウォンなので、ランプやリムーバーもその範囲に収まっている。一式そろえても1〜2万ウォン台という報道と合う
- 人気の色は品切れが起きている。棚にあるかどうかは行ってみないと分からない、という前提で見たほうがいい
日本の100円ショップにもネイル用品はあるが、550円までの帯があるかどうかで、棚に載るものが変わる。ジェルやランプは100円では作れず、かといってサロンに行くほどでもない——その帯に入る商品が、韓国の棚には並んでいる。土産として軽く、かさばらず、値段の説明がしやすいという点でも扱いやすい。
次に出す答え
今回はっきりしたのは、ダイソーの棚で順位が入れ替わったところまでである。その先には、まだ出せていない答えが2つ残っている。
ひとつは、サロンが実際に減ったのかどうか。家でやる人が増えたことと、店に行く人が減ったことは、同じではない。両方が増えている可能性もある。「셀프네일」「젤네일」「네일샵」の3語を今日から毎日取りはじめた。この3本の線がどう動くかで、サロンから移ったのか、新しく始めた人が加わったのかが分かれる。
もうひとつは、誰がやっているのか。ネイバーショッピングの年代別の内訳は取れるのだが、いまの量では月ごとに結果が裏返ってしまう。数字が落ち着いたところで、この流行の真ん中にいるのが誰なのかを出す。
どちらも、次にこの話を書くときの本題になる。
編集部から。数字の上で何かが入れ替わるとき、たいていは棚が先に変わっている。ダイソーのネイル売り場が広がったのは、誰かがそう決めたからで、その判断は現地の売れ行きを見て下されている。次にソウルに行く機会があれば、目当ての店に入る前に、いちばん近いダイソーの棚を10分だけ見てみてほしい。いま韓国で何が動いているかは、記事より先にそこに並んでいる。
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